「歴史に残る偉業」

50代 男性 仙の石 2004.6.20

1998年(平成10年)9月22日近畿地方に上陸した台風7号はこの地域では未曾有の災害を残した。
昼間に襲来し雨量はそれほどでもなかったが風は伊勢湾台風の記録を超え県内最大瞬間風速 59.6mを記録し特に山林には甚大な被害を与えた。室生寺の五重の塔も倒木で破壊された。1998年11月の惨めな野登寺本堂
築後200年余の歴史を誇る鶏足山野登寺の本堂も鐘楼も杉の大木の倒壊で致命的なダメージを受けた。
800mもの標高に何百年もその姿を屹立させてきた杉の大樹が続々と倒れる、誰がこんなことを想像しただろう。
室生寺の五重の塔は2年程で再建されその見事な姿を披露したが野登寺の復元には5年の歳月がかかった。
その間何度か訪れたが手のつけようが無いほど荒れ果てこの寺はもはやこれまで、としか思えないほどだった。
突発の自然災害であり再建資金も無かっただろう。
部外者の私にはうかがい知る事はできないが関係者の労苦はどんなにたいへんだったことだろう。
それが2003年の春には本堂が見事に復活した。旧い材料を活かしながらこの先何年も持つようにがっしりと建てられている。
荒れた周囲は日本画のグループが中心となって桜やもみじの植林が進んでいた。自分達の代では到底見ることはできないことに奉仕するひとたち、その場かぎりの私欲に明け暮れる多くの営利企業ではできないことだ。もうあの霊気漂うような薄暗い雰囲気は無理だけど孫の代には四季を通じて参詣に訪れる人々をその豊かなふところで迎えてくれるだろう。あの荒れた状況から、よくぞここまでやっていただいたものだ・・・・と涙が出てきた。それから1年後2004年の春には盛大に野登寺落慶法要開扉記念祭が催された。
その規模は延べ1700人を標高800mの山頂に集めるというとてつもないものだった。
大半の人を10台以上の小型バスで麓から山頂までピストン輸送させるおおがかりな企画で準備がどれほど綿密だったかは想像できる。
若者から熟年者まで一緒になって一つの目標に没頭するという今の世では珍しいことだった。
これは時代を超え鶏足山野登寺が「おらが山」として地域の人々の心のよりどころになっている証といえる。
西暦900年頃開山され1500年代に信長、秀吉の軍勢に焼かれ江戸時代に再建された野登寺、そして200年後の今、自然災害で崩壊したがふたたびみがえった野登寺、まさにこれは末永く歴史に残る偉業であろう。

再建された野登寺本堂と鐘楼

荒れた周囲には植林が進む
2004年1月

火わたり神事もおこなわれ
にぎわう野登寺落慶法要開扉記念祭
2004年5月22日
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